西加奈子の『白いしるし』を読みはじめてすぐ胃のあたりがざわざわしてきてこれはやばい本だと確信したし、それは当たっていた。こんな作品が存在していていいのだろうかと本気で思いながらインターバルを挟んで、読んで、読み終わる。誠実な小説だ、と思う。取るに足らないものだと思っていた、取るに足らないものであるふりをしなければいけないと思っていた、だからそうした。そうやって不本意に埋葬してきた私の一部がこの作品に救われたように思った。身勝手な投影だとはわかっていても、心の芯に直接触れてくる作品とひさしぶりに出会えて嬉しい。この小説の、芸術と人のとらえかたが好きだと思う。作品と人格は切り離せないけれど、人格を超えて届く作品もある。評価に混ざる私情を悪と断じるのではなく、「あなたはただ、何かを選んで、何かを選ばなかったことに、自身で責任を負わなければいけない。」他者がきちんと他者として描かれた小説が好きだと思う。予測のつかない動きをする、自分とは違う人格と思考と過去を備えている、必死に推し量ろうとしても最後まで理解することができない、実体に触れることすらできない向こう岸の存在として描いている小説が好きだと思う。正しく絶望することで正しく前を向くことができる。
夢が覚めたら壊れてしまえよ、そのまま夢でいるなら溢れてしまえよ、と歌う音楽をずっと聴いている。
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