あれは遺影だったのかもしれない、と今になって思い至った。題材に自画像を選んだのも絵を展示していた学祭が終わってすぐに髪を切ったのも特に理由があってのことではなかったけれど、結果としてはある特定の自己像を自分から分離させる過程だったといえる。特定の自己像、有り体に言ってしまえば世間知らずの女の子としての私だろう。大学に入ってからの新鮮味と不自由さを体現するその像には愛着も嫌悪もあった。3年弱の間それをかぶって戦地を生き延びてきたことを思えば単純に捨てるには忍びなく、カンバスの上にそれをとりのけておこうと思ったのかもしれない。展示を見て「ちょっとこわい」とのコメントを残していった名も知らない人の気持ちを想像する。よくわかる。私もこわい。あの絵に何がうつっているのか自分でも完全にはわからない。ひんやりとした情念があるように見える。矜持が見える。自己防衛のための見せかけの軽蔑が見える。結局はそこが私の弱点であり限界であるのだろうと思う。
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