2018年12月6日木曜日
寝室
まだ生きているそれを殺すのどんな気持ちだった。わからない、どんどんわすれていくよ、時が経っていくからね。どんなふうに手をかけたの、どんな顔でみていたの、みるみる目減りしていく命を、そのときのあなたは今のあなたと同じ人? そのときのわたし、もうずっとずっと深い底へ沈んでしまったから、沈んでいくそれを追いかけて身を投げることもできたけれど、岸にたたずんでただ見ていたから、白くて長い衣の端が青緑の奥へと逃げていく優美な動きの残像しか残っていない、ほら、見えるでしょ。絵を描く暇なんてなかったよ、だってあんまりあっという間のことだったから、だけど言葉にはほんの少しだけ写しておいた、だってあんまり綺麗だったから。そう、あのときあの場所でなかったら生まれなかったはずの美しさだった、生まれたばかりで死んでいくものだけが放つ痛ましい輝きだった、まぶしい光を散らかしながら薄い破片が飛んできて、首筋に刺さって血が流れた。温かく零れる血もいずれ冷えて固まり、だけどわたしは、ぼくは、おれは、きみは、きっと性懲りもなくまたそれを信じるよ、信じていいよ、醜いままでそれは美しい、凍りつく冬の夜空のように透徹してきみを、抱きしめるよ。そして再び来たる満月の夜、上品にきらめく針の一突きが心臓に穴をあけ、糸を通して染め上げるよ、きみが楽しんだぶんだけ、苦しんだぶんだけ、その色は濃く深まって、するする通り抜ける糸を追って、重力の腕にすべてをゆだねる気もするする失せていく。その糸で何を織るの、何を織ってもいい、ただ自分のためだけに、自分のどこかを繕い塞ぐためだけに使わなくてはいけない、それがどこかって、もうわかっているでしょう、その作業が終わったときにはすべてが元通り、何も心配することなんてない。何も心配することなんてないよ、ほら夜明けの最初の光が、まだ見えないけれどあの山の裏側を温めて、もうすぐ乗り越えてこようとしている、もう部屋へ帰りなさい、扉は静かに閉めて、皆を起こさないように、それじゃ、ゆっくりおやすみ。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿