おかしいのはわたしの方で、だってもう傷つきたがっている、傷つきが足りなくなっている。このあいだ処方してあげたばかりでしょう、医者は呆れ顔、そうだわたしは呆れられたい、呆れながらそれでもあなたを見放しはしませんよと言外の寛容さをのぞかせた顔をさせたい、でも誰に? 喉元過ぎれば熱さを忘れる要領で刃が上がればギロチンを忘れ、断たれた首は断面があんまり滑らかなのでぴったり元の位置に収まって、処刑の前日に誰かが刃を研ぎすぎたのだ、もっとぎざぎざ錆びついていればわたし死んだままでいられたのにね。わたしの血小板はことばでできているらしく、血が流れるやいなや血流にのって押し寄せてくる活字の群れが、破れた血管のうえに巧妙に網を張る、みたこともないようなあたらしいつなぎ目。すみずみまで探検するには時間がかかるからあんまりはやくなおりきってしまわないようにあらがってあらがって、そろそろ限界がくる、傷つきが足りない。
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